たわしは握ると痛い

黒歴史の創生

もやしの豆の部分だけ取って食べる派

俺の名前はポチせんべい。特に何の取り柄もない高校1年生だ。

今日は4月3日、つまりは俺が入学する「県立爪切(つめきり)高校」の入学式である。

爪切高校(略して爪高)は偏差値が高くも低くもなく、俺の家から歩いて20分という、まるでこの爪高に入ることを運命付けられたかのようだった。しかも風の噂によると可愛い女の子も多いとか何とか………ムフフ。

高校生生活初日から色々な妄想をフルスロットルに稼働させつつパンをかじってると、外から聞き慣れた甲高い声が俺の鼓膜を劈(つんざ)いた。

 

「ポチくーん!!早くしないと入学式遅れるでしょー!!」

 

「分かってるっての!てかうるせえよ!き…深爪!」

 

「分かってるなら早く支度しなさいっての!あとキリちゃんって呼べ!」

 

あのいかにもおしゃべりが好きそうでお節介焼きなアイツは深爪切子。家が隣って事もあって、物心ついた頃から家族ぐるみでずっと一緒に遊んでいた。いわゆる幼馴染ってやつだ。

俺も小さい頃はキリちゃんキリちゃんと呼んではいたけど、その…もうそんな歳でもないし周りにもからかわれるって事でその呼び方はやめた。はずなのだが、切子は頑なにそう呼ばせようとしてくる。そのくせ他の男子にそう呼ばれるのは嫌がっているらしい。何でだよ。

第一まだ時間には余裕が…と、ふと切子が今日の入学式で新入生代表として挨拶を任されていたことを思い出した。その打ち合わせのために、30分早めに到着していなければならないのだ。

何で俺まで一緒に行かなくちゃいけないんだとは思ったが、一週間前の俺はあまりの眠気に一緒に登校する事をほぼ無意識に了承してしまっていた。

食べかけのパンをそのままに、急いでカバンを持って家を出る。

家の外では切子が腰に手を当ててふくれっ面で仁王立ちをしていた。お前はいつの時代の人間だよ。

 

「遅い!筆記用具持った?ハンカチとティッシュは??」

 

「お前は俺の親かっての、全部持ってますよ」

 

「ならよーし!」

 

幼い頃から続く母親まがいのお節介ゾーンを終え、切子と俺は学校へ歩き出した。

 

「聞いてよポチくん!マキちゃんたらこの前ね………」

切子のマシンガントークを聞き流しつつ、俺は考え事をしていた。

切子は新入生代表として挨拶を任されるほどの優等生だ。切子の頭なら、もっと進学校である爪水虫高校にも行けたはずなのだ。にも関わらず切子は今俺の隣を同じ道のり、同じ制服を着て歩いている。

 

「……でね…って、ポチくん聞いてる?」

 

「…あのさ、k…深爪。」

 

「キリちゃん!で、何よいきなり。」

 

俺は思ったことをそのまま切子にぶつけてみた。

 

「何でお前頭いいのに爪高に入学したの?」

 

「…………へぇっっっ!?!?!?」

 

「うおっ!?」

 

いきなりの大声に俺は思わず尻餅をついた。

切子の顔はみるみるうちに赤くなり、目はぐるぐる、顔からは湯気が出ているような錯覚を覚えた。てか本当に湯気が出てないか、これ?

 

「いや、あの〜、その〜…そう!家!家から近かったから!!!!」

 

「いや、爪水高も同じくらいの距離じゃん…。」

 

身体を起こしながらさらに追及する。俺の探偵EYEはターゲットを捉えて離さない。

 

「えっ!?そうだっけ……じゃ、じゃあ雰囲気!!あそこの雰囲気堅苦しくって、楽しくなさそうだし!!!」

 

「…なるほど。」

 

確かに一理ある。

切子は見ての通り明るくて、冗談が好きで、スポーツが得意で、切子といるとこっちまで楽しくなって、ポニーテールがよく似合ってて…って違う違う。俺は何を考えているんだ。

と、とにかく、確かにあの進学校特有の雰囲気は切子には合わないかもしれない。俺の探偵EYEは追及をやめた。

 

「そういう事よ!それに爪高なら…またポチくんと一緒に居られるし…

 

「爪高なら…何だって?」

 

「何でもない!!!もう!!!早く行くよ!!!」

 

「えっ!おい俺なんか変な事言った?!待てって!ちょっと!!」

 

 

何故か顔を真っ赤にしながら足早に歩みを進める切子に、俺は1テンポ遅れて追いかける。

 

高校生生活初日からこんな感じなんて、これから3年間はもっと大変な事になりそうだ、言葉とは反対に笑みが溢(こぼ)れている事にポチせんべいは気づいていなかった。

 

 

つづかない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深爪は痛いって話でした。